6日にあった愛知県半田市での東京五輪聖火リレーで、五輪中止を訴えるプラカードを掲げた男性に対し、リレーの運営関係者が取り下げを求め、プラカードの前に立ちふさがるトラブルがあった。専門家からは、運営側の行為は表現の自由の侵害にあたる可能性も指摘される。
6日午前10時ごろ、同市の半田運河左岸の市道で、国民服姿の同市の30代男性が「東京五輪 中止の夢をもういちど」と記したプラカードを無言で掲げた。男性によると、リレーのコースからやや離れていたが、運営スタッフから「ここは個人の主張を表明する場ではない。プラカードの掲示はできない。五輪憲章に書いてある」と撤去を求められ、男性が拒むと警備員が駆けつけ、プラカードの前に立ち続けたという。
朝日新聞の取材に対し、大会組織委員会は「運営への影響や周囲の方の観覧の妨げにならない限り、沿道でのバナーやプラカードの提示は自由」とする一方、半田市での事例についてはスタッフがプラカードの取り下げを求めたことを認め「周りの観客の皆さまへ不安を与えると判断した」と答えた。これに対し男性は「後ろの人の観覧の邪魔にならないよう、プラカードを頭上には掲げていない」と話す。
木村草太・東京都立大教授(憲法)は「公権力がプラカードの前をふさげば表現の自由を保障する憲法21条に抵触する。組織委は公益財団法人だが、政府や東京都の職員が深く関与している。五輪への反対意見の表出を萎縮させるふるまいを行えば、公権力を背景にした威迫と受け止められかねない」と指摘する。
運営側が五輪憲章について発言した可能性があることについて、神戸大大学院国際文化学研究科の小笠原博毅教授(社会学)は「五輪憲章に、『五輪は個人の意見を主張する場ではない』と書かれてはいない。むしろ、立場や意見の違いを超えて世界がつながろうというのが五輪の理念ではないか」と話した。(土井良典)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル